地形としての建築
■リノベーションという方法
Responsive Environmentというインスタレーションアートのユニットのメンバーとして東ヨーロッパを訪ねる機会がありました。オーストリアのウイーン、グラーツ、スロベニアのマリボイといった街です。我々のような若い評価の定まっていないグループを招聘してくれるのは、大きな美術館ではなく、もっと小さなギャラリーやアートセンターです。
そういった場所の多くは工場、倉庫、使われなくなった付属の建物などをリノベーション(改修)して使っていて、多くの場合は運営者たち自身の手による手作りです。意図した訳ではないのですが、結果として、もと公園のゲストハウス、もと電線工場、もと軍の食料供給基地、といった「もと○○」というような場所ばかりをツアーして歩くようになりました。
そこでは人々が自ら場所を発見し、工夫を凝らしながら生き生きと場所を使っていました。こういう経験を通して「リノベーション」という出来事に興味をもち始めました。
■廃墟を再生する
そのうちに、東京・神宮前で工事中に放棄され、廃墟になっていたマンションの躯体を、再生するというプロジェクトに参加することになりました。このプロジェクトは8戸からなるワンルームマンションのためのコンクリートの構造体を、3戸の集合住宅として再構成するものでした。
デザイン的にもいろいろな試みをすることができ、充実したプロジェクトだったのですが、一番興味を引かれたのは、施主が最初に放置された廃墟同然のコンクリートの構造体を見て、そこに自分の住まいをつくる、ということをイメージできたことでした。延床約470?の集合住宅全体を、当面オーナー家族3人で使うということでしたので、今回の改修に必要な予算があれば、十分に「豪邸」を新築することも出来る条件でした。でも、このオーナーは廃墟に可能性を感じ、自分の夢を重ねて見ることが出来たのです。その事自体に、日本においてもリノベーションという方法が根付いていく可能性を強く感じました。
■地形としての建築 building landscape
自分のデザインした建物もいずれリノベーションの対象となるということを前提とした時、新築のプロジェクトをどう考えたらいいでしょうか。一つには工場や倉庫のような大空間を用意し、自由に中を使ってもらうというアプローチがあります。
しかし、我々はどのように使い方が変わろうともその場に決定的な質を残せるものをデザインできないだろうかと考えています。それを「地形」と呼んでみたりしています。もちろん、その時々にはディテール、材料や色彩などもこだわって設計する訳ですが、そういったものがすべてご破算になった場合にも残る骨格のような部分にもっとも集中したいと考えています。
例えば八王子の住宅地に設計した「Crossing CAVE」という住宅では、十字架型の断面を持った大きなキャンチレバー構造の建物をつくりました。この大地から持ち上げたボリュームが一種の地形のような条件となり、隣接して建つ住宅や緑道との間に作り出される関係を決定的に規定できるのではないかと考えています。
また三鷹の密集市街地に出来上がった「Slanting CAVE」という住宅では、住宅の中に穿たれた斜めに延びる吹き抜け空間を作っていますが、これはいわば太陽に向かって延びていた洞窟をリノベーションし、室内化したようなイメージを持っています。
言ってみれば、地形としての建築を提示するということは、住み手や、将来リノベーションの設計をしようとする建築家にいまから挑戦状を叩き付けようとしている訳です。
「これをどう料理しますか?」と。
(山代悟)
■初出:
旭硝子ハローアーキテクト 住まいの話題[305]
http://www.asahiglassplaza.net/kaiteki/architect/ar/topic/305.htm



